はじめに
近年、旅行業界においてもSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まりつつあります。クルーズ旅行も例外ではなく、環境保護や社会貢献への取り組みが求められています。

この記事では、フォースウェーブが行った調査結果に基づき、クルーズ旅行がSDGsに及ぼす影響と、持続可能な観光を実現するための課題と展望について解説します。
SDGsと観光業:持続可能な旅とは?
SDGsの発表以来、「サステナビリティ」という言葉が流行しています。その言葉は一般的には地球の環境を守るためのワードとして、ごみの削減や分別・節電等の行動を意味するものとして知られているように感じますが、観光業という文脈に当てはめて考えると、もう少し幅広い意味を持っていると考えられています。「持続可能な観光業」とは、どのようなものなのでしょうか。
UNWTO(国連世界観光機関)は、SDGs達成のための「持続可能な観光」を、 「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」 と定義しています。
持続可能な観光には、経済成長、社会文化的好ましさ、環境に対する適正 の3つの要素が重要です。
それを踏まえ、国連は2017年を「持続可能な観光国際年」と定め、観光業がSDGsの達成に貢献する可能性がある領域として以下の5つの点を挙げています。
- 包括的・持続的な経済発展への貢献 (SDGs 1,2,8,9,10,17)
- 社会的な関わり、雇用増大や貧困の撲滅 (SDGs 1,3,4,5,8)
- 資源の有効活用、環境保護と気候変動 (SDGs 6,7,11,12,13,14,15)
- 文化的価値・多様性・遺産保全への貢献 (SDGs 8,11,12)
- 相互理解・平和構築・安全/安心への貢献 (SDGs 4,16)
クルーズ産業とSDGs:4つの重点領域
クルーズ旅行は、その特性からSDGsの様々な目標と関連しています。フォースウェーブの調査では、クルーズ会社が取り組むSDGsの領域は、大きく4つに分類されました。
海洋保全
- クルーズ船の運航は海洋環境に影響を与える可能性があるため、海洋汚染の防止、海洋生態系の保全が重要となります。
地球温暖化対策
クルーズ船は大量の燃料を消費するため、CO2排出量削減、省エネルギー化などの対策が求められます。
地域保全
寄港地への経済効果、地域社会への貢献、文化交流などが期待される一方、オーバーツーリズムや環境負荷への配慮も必要です。
平和構築
多様な国籍の乗客が集まるクルーズ船は、相互理解や国際交流を促進する場となりえます。
クルーズ会社のSDGsへの取り組み事例
フォースウェーブの調査では、各クルーズ会社が上記の4つの領域において、具体的な取り組みを行っていることが明らかになりました。
- 海洋保全
- 水循環システムの導入
- 節水システムの導入
- 排水浄化システムの導入
- 海洋保全に関わるNPOへの支援
- サンゴ礁の保全活動
- 海洋生物の生活圏を避けた航行
- サスティナブルなシーフードの提供

- 地球温暖化対策
- プラスチックゴミ削減
- 排気ガス削減技術の開発
- LNGなどのクリーンエネルギーの利用
- 速度調整による燃料削減
- 航路調整による燃料削減
- 廃棄物削減とリサイクル
- フードロス削減活動
- 地域保全
- 地域経済支援活動
- 自然災害への寄付
- 野生生物保護活動
- 地域社会支援活動
- 地域のNPOへの支援
- 清掃活動
- 地産地消の推進

- 平和構築
- NPOへの支援
- 国際機関との連携
- 途上国支援活動
- 教育支援活動
- ボランティア活動

この4領域とSDGsの関係性と構造について、もう少し検討してみましょう。 ストックホルム・レジリエンスセンターのPavan Sukhdevは、SDGsウェディングケーキというSDGsの構造化モデルを考案しました。このモデルでは、最下層に環境レイヤ―と呼ばれる目標 (SDGs 6,13,14,15)を位置付け、その上に社会レイヤー (SDGs 1,2,3,4,5,7,11,16)、さらにその上に経済レイヤー (SDGs 8,9,10,12)を重ねることで、経済成長のためには社会インフラを整備する必要があり、社会インフラを整備するために生存基盤としての自然環境を維持する必要があるということを表しています。そのような構造が達成されていない状態ではSDGsが目指す「誰ひとり取り残さない」という状況が達成されないということを示しています。この概念に基づいて考えると、クルーズ旅行のそれ自体の目標である旅行業界・クルーズ企業・地域経済の活性化は、先ほど紹介した地域社会の保全・企業の人材保全といった社会的な側面がベースとなっており、さらにそれは海洋保全・地球温暖化・地域環境保全といった環境的な側面がさらに基礎となっています。

クルーズ旅行とSDGsの未来:課題と展望
クルーズ旅行がSDGsに貢献するためには、いくつかの課題を克服する必要があります。
- 環境負荷の低減:CO2排出量削減、廃棄物削減、海洋汚染防止など、環境負荷を最小限にするための技術開発や取り組みが必要です。
- オーバーツーリズムへの対策:寄港地への集中を避ける、観光客の分散化、地域住民との共存などを図る必要があります。
- 社会的責任の遂行:労働環境の改善、人権尊重、多様性と包容性の推進など、企業としての社会的責任を果たす必要があります。
クルーズ産業は、これらの課題解決に向けて積極的に取り組むことで、持続可能な観光を実現し、SDGs達成に貢献していくことが期待されます。