イラン情勢から見るクルーズ産業 – 平和が支える海の旅
中東情勢が緊迫している中、乗客の安全確保という最優先事項を前に、各クルーズ会社は中東におけるクルーズ運行に関して苦渋の決断を迫られています。
最新の報道によると、MSCクルーズのMSCエウビリアをはじめ、ドイツのTUIクルーズやギリシャのセレスティアル・クルーズといった主要なクルーズ会社が、次々にアラビア湾でのクルーズの中止を発表しました。クルーズは「動くホテル」とも称されます。しかし、その「動く」という最大の強みが、地政学的なリスクを受けやすいという側面も持っています。寄港地の情勢が不安定になれば航路の維持が困難となるため、寄港地の政治的安定はクルーズ運行にとって極めて重要だといえます。これはクルーズに限らず、観光産業そのものが平和で安定した社会を前提として成り立ちます。
現在、特に象徴的なのはドバイの港に停泊を余儀なくされている「MSCエウビリア」の状況です。本来であればアラビア湾を周遊し複数の寄港地を巡る航路を航行する予定でした。船内のサービスは維持され、状況は落ち着いているとされていますが、MSCクルーズは現在、乗船している約4,800人の乗客に対し、エミレーツ航空やエティハド航空、さらには各国外務省、大使館と協力し、チャーター便の検討などの帰国支援を急いでいます。
豪華な客船やサービスだけがクルーズの本質ではなく、「境界を超えて自由に安全に移動できること」そのものにあると言えます。そしてそのインフラを支えているのも港湾施設や客船だけではありません。寄港地の平穏が、クルーズを成立させる最も重要なインフラの一つと言えます。
国土交通省は2030年までに日本人クルーズ人口を100万人とする新たな目標を発表しました。その目標に向けて盛り上がる日本のクルーズ市場も東アジアの安定があってこそ成り立ちます。今回の中東のニュースを受けて、私たち一人一人が平和の価値を意識し維持することで、2030年、世界中の船が日本の港に集まる未来につながるのかもしれません。
【参考】
WED CRUISE
イラン情勢により、複数のクルーズ船社が中東でのクルーズを中止
国土交通省報道発表資料